オシムの言葉

最近、日本代表の次期監督最有力候補と目されてにわかに時の人となりつつあるオシム監督。現在ジェフの監督をしているこの人を、私は「弱小ジェフを立て直した」敏腕監督として結果のみ知っている存在でした。しかしなかなかに深い言葉を語るということで、語録を集めて一冊の本になるというのは驚き。
私が印象に残ったシーン。監督は練習で攻守1対1のミニゲームをさせた。しかし攻撃側は攻めあぐねてなかなか点が入らない。そこで監督は脇に控えていた選手に「なにを見ているんだ。なぜ助けに行かないんだ」。監督が1対1でやれといったのに、助けに行けとはどういうことか。まったく理不尽な指示だが、オシム曰く、「1対1なんて実戦ではほんの数秒しか続かない」。監督のいわれたことをそのまま聞くのではなく、その意図を考えて行動することが求められる。そんなオシムの方針を端的に表しているエピソードと思う。
このエピソードもそうだが、その言葉ひとつひとつが深くて、クセがある。しかし単なる偏屈な人というわけでもなく、ユーモアを使いこなせる人物でもある。数学教授を蹴ってサッカーの選手になったほど論理的思考を持っており、かつ選手の感情的な部分を重要視する一面もある。親日家であるために日本で指揮を執っているが、祖国セルビアでは英雄のような存在である。元ユーゴスラビアの内戦でセルビアの敵国でもあったクロアチアスロベニアの人からも愛されている。今は分裂してしまったユーゴスラビアのサッカーを語るとき、あるいはオシムを語るとき、内戦という悲劇を欠かすことが出来ないようでそういうサッカーの歴史もこの本は語っている。
読む価値ありの、★4つ。