徒然草

つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書き付くれば、あやしこそもの狂ほしけれ。
(訳
今日はこれといった用事もない。のんびりと独りくつろいで、一日中机に向かって心をよぎる気まぐれなことを、なんのあてもなく書き付けてみる。すると、しだいに現実感覚がなくなって、なんだか不思議の世界に引き込まれていくような気分になる。

日本三大随筆の一つと呼ばれる古典文学書、徒然草。私はとくに古典文学に興味があるわけでもないのですが、書いてある内容はまるで現代に生きている人の視点のようで、古典ということを全く感じさせない文章でした。驚いたのは、先に抜粋した序章でもそうですが、何かブログ的な雰囲気を漂わせているということ。書いてあることは本当に思ったことを短く書きつづっただけといった感じ。これが七百年前に書かれた文章なの?と思う箇所も随所に見られます。
「この前行った家の庭はすばらしかった。山里深くの苔むした細道を歩き、ひっそりとたたずむ庵は風情を感じられた。だが、たわわに実った蜜柑の木に厳重な囲いがされているのを見て幻滅してしまった。(第11段)」
「この前友人と行った家の女性は、私たちが帰った後もすぐに家に入らずしばらく月を眺めながらその人のことを想っているようだった。私はこっそりその様子を見て、女性の心配りに感心してしまった。(第32段)」
「酒を無理矢理勧める人を見ると、何が面白いのか全く分からない。マジメな人間も狂人のようになるし、健康な人も重病人のように倒れ込む。飲酒によって人間の理性を失い、あらゆる戒律を破るのだから来世では地獄に行くこと間違いなしだ。まあ、名月の下で、あるいは桜の下でゆったりと会話を交わしながら飲む酒は一興だが。(第157段)」
こんな調子で243段まで続きます。読み物としても読みやすく、一段で多くても2〜3ページほど。ちょっとした空き時間に少しずつ読むのも良い感じ。
徒然草を扱う文庫本は多くの出版社が出しているようですが、本屋で読み比べた感じではこの角川書店版が読みやすくてとても良かったです。700年前のブログの源流であるこの本は読むに値するオススメ本です。★5つ。