スティル・ライフ

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

世界が君のために存在すると思ってはいけない。世界は君を入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている―。
星の王子さま(池澤訳)*1』、『南の島のティオ*2』と続き、ついでなのでもう一作ほど池澤夏樹さんにつきあってみようと思ってわざわざ探して図書館で入手。池澤夏樹さんの代表作で、芥川賞受賞作品でもあるのです。
その作品は、とても文学的で詩的でした。特に雪の降った日の話が印象的。雪は降ってくるものではなくて、実は浮いている雪の中に自分やその周りの宇宙が昇っているのではないか。雪の降る中で身動きひとつせず、ただ世界を眺めるとそんな錯覚を覚えると。「自分」と「世界」が別物であると認識できるなら、そういうものの見方も悪くない。
ただ、そういう純ロマンチックな世界を描く箇所以外は案外普通で。恐ろしいほどに現実的な描写が間にはいるとどうにも冷めてしまうのです。現実と非現実が隣り合っている、という描写なのかも知れませんけど。そういう意味では「星の王子さま」のようにロマンチック一辺倒というわけでもなく、「南の島のティオ」のように純現実のなかにロマンを見いだすという感じでもない、中途半端さ加減があったように思えます。それとも、私の読み方が浅いのかな?
池澤夏樹シリーズはまた機会のあったときに。★3つ。